「あと一歩で水の中だった」命がけのハンドランディング。四万十川31kg vs プロトタイプ。
全ては、ミウラデザインを愛するユーザー様からの、ある切実な願いから始まりました。 「アカメやイトウ……日本の淡水域に潜む怪物たちと、対等以上に渡り合えるロッドを作って欲しい」
その言葉は、私の魂に火を点けました。 目指したのは、単なる「剛竿」ではありません。ティップからベリーにかけては、ルアーの水噛みや挙動を指先で感じるほど繊細に。そしてベリーからバットにかけては、暴力的なまでの質量を受け止める強靭なパワーを。 この相反する二面性を一本のシャフトに共存させるため、市場には出回らない特殊なカーボンシートを手配。コンセプトを研ぎ澄まし、約2年の歳月をかけてプロトタイプを練り上げました。
その真価は、すぐに証明されます。 テストを託した佐藤アキラ氏が、プロトモデルで30kgオーバーのアカメを捕獲したのです。滅多に道具を褒めない彼が言いました。 「この軽さとバランスは素晴らしい。これは世に出すべきですよ」 その言葉が、私の背中を強く押しました。
聖地・四万十への誓い
2本目のプロトが完成した冬、一度は落ち着いていた私の中の熱が、春の訪れと共に再燃しました。 「今年の夏、この天候とこの潮で必ず獲る」 社員に対し、最長2週間の休暇を取り、四万十川へ向かうことを宣言。それは長年の経験とデータが導き出した、確信に近い賭けでした。
アカメを釣るだけなら浦戸湾の方が確率は高い。しかし、私には数十年通い詰めた「四万十川で釣る」という、譲れない美学(こだわり)がありました。佐藤氏からの「メモリアルフィッシュを釣らないと」という激励を胸に、私は灼熱の四万十へと車を走らせました。
予兆:指先に伝わる確信
現地入りした私は、肌にまとわりつく空気から「悪くない」気配を感じ取っていました。過度な緊張はなく、ただ純粋に釣りと向き合う静寂な精神状態。 誰もいない闇夜、その瞬間は訪れました。
プロトタイプのビッグベイトをひったくったのは、78cmのアカメ。 重量を測るまでもなくオートリリースしましたが、その一連の動作の中で、ロッドが私の手の一部になったかのような錯覚を覚えました。軽さの中に潜む、底知れぬトルク。確信は深まりました。
死闘:闇夜の31kg
翌日。私はポイントを微修正し、安全のためにウェーダーではなく、機動力を重視してウェーディングシューズに履き替えました。「濡れたら着替えればいい」。その判断が、後の運命を分けます。
深夜、静寂を切り裂くバイト。 最初のアタリは極めて微細なものでしたが、ミウラデザインのティップはその違和感を逃さず、私の脳髄へと伝達しました。魚が完全にルアーをホールドしたのを感じ、渾身のフッキング。
刹那、猛烈なファーストラン。 しかし、ロッドベリーの粘りとバットの剛性が即座に機能し、走りを止めにかかる。勝負あったか――そう思った瞬間、魚は再び加速しました。 数十メートル沖、闇夜のわずかな明かりの中で炸裂した巨大なエラ洗い。その飛沫の大きさを見て、私は戦慄しました。相手は、ルアーを外そうと首を振っている。
そこから始まった、合計4回に及ぶアカメ特有の死の突っ込み。 しかし、あえてソフトに設計し、バラシ対策を施したティップが、その衝撃を「いなし」続けました。ロッドは限界まで弧を描きながらも、決して主導権を渡さない。タックルと私の精神が一つになり、ついに怪物を足元まで寄せました。
境界線:命懸けの抱擁
水面に横たわったのは、見たこともない巨大な口を持つアカメ。 持参したシーバス用のフィッシュグリップなど、何の意味も成しません。私は覚悟を決め、その巨大な顎に両手を差し込みました。ハンドランディング。
しかし――持ち上がらない。 陸に上げるには数十センチ浮かせなければならないが、まるで岩のように重い。 力を込めるたび、足元の砂利が崩れ、靴が滑る。ズルリ、ズルリ。私の体は10センチずつ、暗黒の水深へと引きずり込まれていく。 3回目のトライで、死の恐怖がよぎりました。 「あと一回失敗すれば、このアカメと共にドボンだ」
それは、人生最大のピンチでした。 「うおおおッ!」 火事場の馬鹿力とはこのことでしょう。私は命を燃やし尽くすほどの力を込め、30kg級の巨体を抱え込みました。 私の腹の上にアカメの頭が乗り、その圧倒的な重量で身動きが取れない。早く蘇生させなければ悔やみきれないが、もう指一本動かせないほど体力を使い果たしている。 必死の思いで佐藤アキラ氏に電話をかけました。移動中だった彼は、即座に駆けつけてくれました。 暗闇の中から現れた彼の姿が、この時ほど「神」に見えたことはありません。
佐藤氏のサポートで、アカメをソリに乗せて安全な場所へ移動。 意識が遠のき、その場に座り込む私の横で、王者は息を吹き返しました。近づけば2回ほど弾き飛ばされるほどの凄まじい生命力。
計測の結果、全長127cm、重量31kg。 丸々と太った、四万十川の至宝。
このプロトモデルで上がった、2匹目の30kgオーバー。 そして、その瞬間に開発者である私自身が立ち会えた奇跡。 重量計の「31kg」という数字を見た時、安堵と感動で意識が飛びそうになりました。
震える手で魚体に触れながら、私は心から思いました。 「このロッドは、損得勘定抜きにして、世の中に出さなければならない」と。
ミウラデザインが求めた答えが、今、ここにあります。 この感動を、本物を求める全てのアングラーへ。
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